【やさしい研究紹介】  もとに戻る

はじめに
 私たちの研究のスタンスは、「生体は非常に優れたシステムなので、それを手本にして、新しい概念の機能性分子や機能性材料をつくって行こう」ということです。生体の何を手本にするかというと、私たちは「分子認識」に着目しています。われわれの身体はいろいろな臓器、組織で出来ていますが、もっと細かい見方をすれば、全部、分子です。いろいろな分子から出来ています。それでは、それらの分子を全部、同じモノを同じだけつくって、バケツに放り込んで、ぐるぐるっとかき混ぜたら、生体機能ができあがるか、というとそんなことはありません。なぜかというと、身体の中では、分子がいい加減に存在しているのではなくて、秩序をもって存在しており、その結果、生体情報システムをつくり上げているからなんです。
 さて、どうして秩序を保てるかというと、分子が分子を認識する、つまり、決まった相手とだけひっついたり、反応したりするという、「分子認識」機能を持っているからです。いいかえれば、生体機能のおおもとは、分子認識にあるわけです。

 竹内グループの研究を一言でまとめると、分子認識の機能を持つ分子、すなわち人工レセプターに関する研究ということになります。上図で例えると、特定の鍵(ターゲット分子)を持ってきたときにだけ開く(機能する)ような錠前(人工レセプター)をつくる研究、といった感じでしょうか。人工レセプターに関してどのようなことを行っているかは、下図のように、大きく分けて3つのフェーズから成り立っています。人工レセプターの設計、人工レセプターの構築、それから、人工レセプターを使った応用ということになります。

モレキュラーインプリンティングによる人工レセプターの設計と構築
 人工レセプターを構築するにあたって、私たちはモレキュラーインプリンティングというストラテジーを使っています(モレキュラーインプリンティングに関する詳細は竹内グループホームページの研究概要を参照して下さい)。
 モレキュラーインプリンティングの技術をひとことでいうと、ポリマー(プラスチックを想像して下さい)の中に分子の型を取る、ということになります。分子をポリマーの中に埋め込んで、後から抜き取ってやると、ポリマーの中に分子の型が取れます(もとの分子の形の空間が残るようなイメージ)。こうすることによって、特定の分子を記憶させるわけです。
 単に、型を取るだけだと、分子の形が残るだけですが、このまわりにその分子の化学的な情報を記憶する分子(モノマー)を配置させることによって、化学情報を記憶した分子鋳型ができるわけです。その結果、このポリマーには、特定の分子しか入ることができません。これが、分子認識をする人工レセプターです。

人工レセプターの設計
 このような人工レセプターをつくる過程では、このモノマーがうまくターゲット分子の周りに集まって、化学情報を記憶できるか、ということが重要になります。人工レセプター構築前の段階で、分光学的測定や分子モデリングを使って、人工レセプターを設計します。

人工レセプターの構築
 人工レセプターを自動的に合成するロボットシステムの構築を行っています。その後の人工レセプターの評価も自動的に行います。

人工レセプターの応用
 どういう分子をターゲットにするかに依って、いろいろな応用が考えられます。農薬を捕まえる人工レセプターは環境浄化に使えますし、体内の老廃物や薬物を捕まえる人工レセプターは人工肝臓・腎臓などに応用できます。

情報発信型人工レセプター

==センサー・人工バイオ素子への応用==
 先ほど、化学情報を記憶する分子(モノマー)で、ターゲット分子の周りを固めると書きましたが、このモノマーを工夫することで、いろいろな機能を人工レセプターに持たせることができます。ここでは情報発信機能を取り上げたいと思います。
 私たちの研究の手本はたえず生体にありますので、ポルフィリンという分子をモノマーに使いました(下図)。ポルフィリンというのは、血液中の赤血球に含まれる分子です。ポルフィリンはヘモグロビンの中にあって酸素分子の運搬をやっているのですが、われわれが注目したポルフィリンの特性は、蛍光を持つ、つまり、光るということです。しかも、他の分子と結合することによって、光ったり光らなくなったり、色が変わったりするんです。この分子をパーツに使って人工レセプターを構築することによって、分子認識に伴ってシグナリングが起こる、つまり、特定の分子が来たときにだけ、色が変わったり光ったりする人工レセプターができると考えました。

 これはセンサーに使えます。川や湖の残留農薬を検知して光ったり、果物や野菜中のダイオキシンを検知して光ったり、体の中の薬物を検知して色が変わったり、そんなシステムができるわけです。
 さらにターゲットを2種類の分子に設定して、どちらか片方の分子と結合したときに光る、あるいは、両方の分子が同時に結合したときにだけ光る、などの機能を設計したやることによって、「分子ロジックゲート」ができます。次世代のコンピュータ(バイオコンピュータ?)への展開が期待されています。この例では、アウトプットは「光」の有無ですが、アウトプットを、例えば「薬のリリース」として設計してやると、体の異常を検知して必要な薬を放出するなど、医療システムへの応用も考えられます。
 このように人工レセプターでは、分子の中にシステムが設計・構築できるのです。分子は非常に小さいものですから、微小かつ高機能なシステムが期待できます。人工レセプターの「無限の可能性」がお分かりいただけましたか?さらに、触媒活性をもたすことも可能で,これは分子認識能をもった人工触媒、すなわち人工酵素です。将来がとても期待されています。

おわりに
 このように生体のパーツやメカニズムを利用して、生体にはない、センシングに使えるような新しい機能を創りあげるわけです。これが生体を模倣するバイオミメティックあるいは生体に発想の源を求めるバイオインスパイアードと呼ばれる考え方で、私たちの人工レセプター研究の基本となるコンセプトであり、一番のおもしろみでもあります。
 我々が取り組んでいるのは、いろいろな分野を複合した非常に新しい研究領域です。ですから、どんどん新しいことにチャレンジしていきます。みなさんにも1年後にはアメリカとかイギリスとかもちろん日本もですが、国際的なジャーナルに論文として掲載されるような研究をしてもらいます。学生実験のようなトレーニングではなく、世界中に例のない新しいことに取り組むわけですから、これまでの3年間(4年間?)とは違ったやりがいが感じられると思います。ぜひ、一緒に新しい研究にチャレンジして、みなさんの名前が載った論文を発表したいと思っています。

 

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